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アメリカの新聞にみる 人権問題とNPO
2002年3月号

今月の論評: 後戻りしないアメリカの人権政策

かしわぎ・ひろし

特集:人権尊重の意識と政策の広がり

1. 小児科学会、同性愛者による養子を支持
"Pediatricians endorse gay, lesbian adoption"
Sunday, February 3, 2002, San Francisco Chronicle

2. 車椅子で移動可能な住居設計、自治体が条例制定
"Wheelchair Users Achieve Milestone in 2 Ordinances"
Thursday, February 7, 2002, New York Times

3. 強制収容のテレビ番組と書籍、加州の学校に配布
"'Farewell to Manzanar," Landmark TV Film and Book on
Internment, Goes to the Classroom"
Thursday, February 21, 2002, Nichi Bei Times

4. 年金基金、対外投資で対象国の人権状況を考慮へ
"Human rights now a factor in CalPERS investments"
Saturday, February 23, 2002, San Francisco Chronicle

5. デニーズ、マイノリティ所有事業の目標に
"Denny's Diversifies: Dinner Chain Becomes Beacon for
Minority Business Owners"
Thursday, February 28, 2002, Asian Week

ニュース・ファイル            

1. 大統領の呼びかけでボランティア志願が急増
"Volunteers answer president's call"
Friday, February 1, 2002, San Francisco Chronicle

2. ブッシュ大統領、慈善の選択のトップを任命
"Bush picks leader for his 'great cause'"
Saturday, February 2, San Francisco Chronicle

3. 外国生まれの居住者、史上最高の5600万人
"Foreign Born in US at Record High"
Thursday, February 7, 2002, New York Times

4. カリフォルニアの先住民族、全米で最多
"California home to Indians among the states"
Wednesday, February 13, 2002, San Francisco Chronicle

5. ヒスパニック向けの人気英語教材めぐり議論
"Quirky English Cource Evolves Into a Fixture Of Latino Pop Culture"
Wednesday, January 16, 2002, Wall Street Journal

6. ナーシングホームの9割、スタッフが不足
"9 in 10 Nursing Homes Lack Adequate Staff, Study Finds"
Monday, February 18, 2002, New York Times

7. ハワイのNPO、企業の立ち上げを支援
"Hawaiian nonprofit helps startups get going"
Tuesday, February 19, 2002, San Francisco Chronicle

8. ブッシュ政権、福祉受給者の結婚促進に1億ドル
"Welfare chief Is hoping to promote marriage: US is planning to spend $100 million to promote marriage among the Poor"
Tuesday, February 19, 2002, New York Times

9. 雇用不安、大卒以下の若者が最も深刻
"Job losses worst for young with no college degree"
Saturday, February 23, 2002, Sacrament Bee

10. 労働界、議会への働きかけ強化へ
"Unions Hope to Regain Attention of Lawmakers"
Wednesday, February 27, 2002, New York Times

今月の論評: 後戻りしないアメリカの人権政策

かしわぎ・ひろし

 アメリカの人権問題が世界的な注目を集めたのは、1960年代のことだ。メキシコ・オリンピックで、表彰台にのぼった黒人の選手が、星条旗に背を向け、拳を突き上げた。彼らの抵抗の姿をいまでもはっきり記憶している方々は、少なくないだろう。
 しかし、時代は、変わった。わずか10数年後のロサンゼルス・オリンピックでは、優勝した選手が星条旗を手にして、競技場を回り、観衆の歓呼に答える姿が目についた。白人選手だけではない。黒人選手も、同じ行動をとったのである。
 リンチや人種隔離など、剥き出しの差別が表面的に姿を消していったのは、1970年代。以来、差別はなくなった、平等を求める行為は行き過ぎている、白人男性への逆差別が生じたなどの意見が噴出。アメリカの人権政策は、徐々に後退していったといわれる。
 その象徴といわれるのが、アファーマティブ・アクションの廃止である。1990年代に、カリフォルニア大学で廃止を決定。その後、カリフォルニア州の住民投票でも、州のアファーマティブ・アクションがすべて廃止されることになった。
 昨年9月の同時多発テロ事件の直後には、アラブ系やイスラム教徒へのヘイトクライムが続発。パールハーバー直後の日系人への憎悪、敵対心と同じように感じた高齢の日系人も少なくなかった。留学生を含め、移民規制も強化されている。

 以上のように述べてくると、アメリカの人権政策がひたすら後退しているかのように受け取られてしまうかもしれない。しかし、現実は、単純ではない。人権政策の後退には、強い反発がある。アファーマティブ・アクションも、保守派の期待ほど後退しなかった。テロ事件後のヘイトクライムにも、人権団体が一斉に抗議の声をあげた。
 今回の特集の記事を見ても、同性愛者や障害者の権利が拡大している状況が理解できるだろう。また、日系人強制収容問題の公立学校での啓発、年金基金の人権問題への関心の高まり、大手チェーン・レストランの人権政策の変化……。社会の様々な面で、人権政策が進展していることを示している。
例えば、同性愛者の問題でいえば、日本では、依然として揶揄的な見方が強い。しかし、アメリカでは、同性愛者同士の結婚、さらに同性愛者による子どもを養子にする権利まで確立しつつある。この差に驚く人も少なくないだろう。
 日系人強制収容問題は、公民権運動で覚醒した3世が中心になって始めた。当初、1世、2世の反応は、冷淡なものだった。しかし、いつしか世論の支持を集め、補償法案を成立させた。法案の成立で終焉するかにみられた運動は、息の長く続いている。特集でとりあげた、カリフォルニア州の公立学校に収容所問題の教材を配布する動きは、そのひとつだ。

 この情報誌の編集に携わり、13年が経過した。長い人間の歴史のなかで、13年は一瞬にすぎない。しかし、個人としては決して短い時間ではなかった。13年間をともにした情報誌だが、今回をもって休刊することになった。
毎月、100以上の記事を切り抜き、15の記事を選び、日本語で要約をする作業を続けてきた身にとっては、率直に言って残念である。だが、この間の編集作業を通じて、多くのことを学ぶことができた。
 アメリカの人権政策が後戻りせず進んでいるという実感をもてたことは、最大の収穫のひとつである。こう確信できる内容の記事を集めた特集を最後にお送りできることを、うれしく思う。末筆ながら、これまで購読してくださった多くの方々に、心よりお礼を申し上げたい。

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