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アメリカにおける雇用や 職業問題を扱うNPOと行政
日本太平洋資料ネットワーク
理事長 柏木宏
はじめに
この小論は、アメリカのNPOが雇用と職業の問題に対して、どのような役割をはたしているのかについて、行政との関係を含め ながら検討することを目的にしている。

雇用と職業の問題に対するNPOの役割は、ふたつに大別できる。第一に、NPO自体のもつ雇用効果 あるいは労働市場に対する 影響力がある。これについては、ひとつの社会セクターとしてのNPOがアメリカの労働市場全体でどのような位 置を占めているの かについて、統計などを用いながら明らかにすることになる。

第二に、NPOが自らの事業として雇用や職業の問題をどのように扱っているという点がある。この点は、さらにふたつに分ける ことができる。ひとつは、NPOセクターにおける雇用や職業の問題を扱うNPOの現状を把握することだ。この部分も、主として 統計を用いながら分析していく。

もうひとつは、このタイプのNPOが具体的にどのような事業を行っているのかについて、行政との関係も含めて検討すること だ。これについては、ケーススタディを通じて検討していくことになる。NPOが扱う雇用や職業の問題は、多様である。ケースス タディでは、この多様性を見落とさないようにするため、さまざまなタイプのNPOと雇用、職業関係を紹介していくことにする。
第一部 総論
1)国民経済におけるNPOの位 置

アメリカの労働市場におけるNPOの位置を確認する前に、国民経済全体に占めるNPOのプレゼンスについてみてみよう。ここ では、インディペンデント・セクターが実施した調査に基づき、国民所得におけるNPOのスタッフの所得の割合と全米の事業体の 件数におけるNPOのシェアというふたつの数字を用いて考えてみる。

1994年のアメリカの国民所得は、5兆5900万ドルにのぼっている。このなかには、ボランティアや個人商店などにおける 家族の無償労働も金銭に換算されている。NPOセクター(501c-3団体と501c-4団体のみ)は、3540億ドルと、国民所得全体 の6.3%を占めている。なお、営利セクターは78%、政府セクターは15%だ。

事業体の件数でみると、1992年時点に内国歳入局に登録されている501c-3団体の数は、69万にのぼった。また、501C-4団 体は、14万件あまりだ。インディペンデント・セクターは、このふたつのタイプのNPOを独立セクターとなづけている。他のNP Oは、労働組合や商工会議所、退職軍人会などのように、会員へのサービスを主体としている。これに対して、独立セクターのNP Oは、社会一般にサービスを提供しているという公益的な特徴がある。なお、ここでは、特に断らないかぎり、NPOとは独立セク ターのNPOをさすことにする。

1992年における、全米の事業体の総数に占めるNPOの割合は、4.2%。営利セクターの93.8%にははるかに及ばない ものの、政府セクターの0.4%の10倍以上に達している。4.2%という数字は、1977年の4.6%に比べて減少してい る。このことは、NPOの件数そのものが減っているという意味ではない。1977年から92年までの間に、NPOの件数は、年 間平均2.2%増加している。一方、営利セクターの増加率は3%で、政府セクターは0.6%となっている。

過去20年間のNPOの変化をみると、景気の後退期に成長するというパターンがうかがえる。例えば、1977年から82年の 間に国民所得に占めるNPOの割合は4.9%から5.8%へ増加。また、1987年から92年にかけても5.8%から6.3% に増えている。このことは、景気の後退期に、営利セクターでレイオフが増えるなどの社会的な問題が増加することにNPOが対処 していくという性格などが反映しているものと考えられる。国民経済全体でみれば、NPOセクターは景気後退期の経済を下支えし ているともいえよう。

2)労働市場におけるNPOの状況

(表1)にあるように、1994年にける全米の被雇用者は、1億4310万人にのぼっている。このうち、非営利セクターの被 雇用者は、1637万人と全体の11.4%を占めている。非営利セクターのうち、501c-3団体と501c-4団体のみの独立セクター だけみると、人数で1511万人、割合で10.6%となっている。なお、いずれの場合も、ボランティアの労働力をフルタイムに 換算したものが含まれている。

NPOの有給の職員を分析すると、いくつかの特徴を見いだすことができる。第一に、女性の割合の高さである。インディペンデ ント・セクターの資料によると、1990年の全米の有給の就労人口のうち、男性が53%、女性が47%であった。これをNPO だけでみると、男性が35%、女性が65%と圧倒的に女性の比率が高い。また、(表2)から、女性の賃金水準は、民間企業より NPOの方が15%も上回っていることがわかる。このことから、NPOセクターは、女性労働の重要な受皿といえよう。

第二の特徴は、職員の年齢層に関してするものだ。55歳以上の職員が占める割合は、NPOでは13.7%だが、営利セクター では10%にすぎない。65歳から74歳までの年齢層だけをみると、NPOの就労者の2.1%を占めているが、営利セクターで は1.2%にすぎない。このことから、NPOセクターは営利セクターに比べ、高齢者に対してより多くの雇用機会を提供している といえよう。

第三に、職員の学歴と所得に関して、大きな特徴がある。(表2)で示したように、NPOと営利セクターの職員の年間所得を比 較すると、低学歴の場合は格差は小さい。しかし、学歴があがるにしたがい、所得格差が目立ってくる。短大卒では、NPOの職員 は営利セクターの職員より15%近く所得が低いが、大卒では30%、大卒以上では33%にも格差が拡大している。このことか ら、NPOでは、高学歴者が比較的低い所得水準で働くことで、経営を維持しているといえよう。

こうした特徴が生じる理由を探ると、以下のようなことがいえるように思われる。NPOセクターにおける女性の職員の比重の高 さは、営利セクターにおける女性の登用が十分に進んでおらず、NPO、営利の間の所得格差が逆になっている(NPOの方が高 い)という現状が存在することだ。高齢者の割合がNPOに高いのは、年金などを受けながら、低賃金のNPOで働くという形態が ありえることの反映といえよう。最後の学歴の問題でいえば、高学歴でも働きがいや仕事への自由度などを求め、比較的少ない所得 でも働く人々が多いことなどが考えられる。
(表1)セクター別にみた雇用状況
1994年 1987年
セクター別
の雇用形態
人数 割合 人数 割合
非営利セクター 1637 11.4% 1388 10.7%
 有給職員 1032 7.2% 796 6.1%
 ボランティア 604 4.2% 592 4.6%
 独立セクターのみ 1511 10.6% 1244 9.6%
営利セクター 10129 70.8% 9240 71.3%
 有給職員 8997 62.9% 8188 63.2%
 個人事業主 1064 7.4% 968 7.5%
 無給の家族労働 180 0.1% 41 0.3%
 ボランティア 486 0.3% 40 0.3%
政府セクター 2544 17.8% 2336 18.0%
 有給職員 2313 16.2% 2093 16.1%
 ボランティア 230 1.6% 242 1.9%
合計 14310 100.0% 12965 100.0%
<出典>"Nonprofit Almanac 1996-97", Independent Sector

(注)人数の単位は万人。


(表2)セクター別にみた年間の中位所得と就労者の特徴
  全体 営利 非営利 政府 対営利比 対政府比
性別 $25775 $25629 $24870 $26747 (3.0%) (7.0%)
 男性 $30190 $30076 $30129 $30794 0.2% (2.2%)
 女性 $19774 $18744 $21508 $22497 14.7% (4.4%)
学歴
 無 $14702 $14489 $15097 $17129 4.2% (11.9%)
 8学年以下 $16293 $16209 $15051 $17729 (7.1%) (15.1%)
 高校中退 $17589 $17536 $15889 $18752 (9.4%) (15.3%)
 高校卒業 $20984 $21080 $17943 $21328 (14.9%) (15.9%)
 短大 $24744 $25092 $21457 $24441 (14.5%) (12.2%)
 大卒 $34383 $37644 $26458 $28473 (29.7%) (7.1%)
 大卒以上 $44966 $54904 $36893 $37755 (32.8%) (2.3%)
(注)対営利比、対政府比は、営利または政府の中位 所得に比較した非営利の額の多少を示したもので、( )はマイナスを意味す る。

<出典>"National Summary: Not-For-Profit Employment From The 1990 Census Of Population And Housing", Independent Sector

3)雇用や職業関連事業のNPO

National Taxonomy of Exempt Entities(NTEE)は、NPO(501c-3団体)を26の業種に分類している。このうちのひと つに、雇用・職業関連というカテゴリーがある。雇用斡旋、職業訓練などの事業を中心にした団体だ。以下、このカテゴリーのNP Oの概要をみてみよう。

内国歳入局によると、1989年に雇用・職業関連の事業を行っているNPOの数は、3651団体にのぼった。この55%にあ たる2012団体は、同局に会計報告(990書式の提出)を行っている。年間収入が2万5000ドル未満のNPOには、会計報 告の義務はない。したがって、雇用・職業関係のNPOのうち45%は年間収入が2万5000ドル未満ということができる。以 下、会計報告を行った雇用・職業関連のNPOに限定して、さらに詳しい内容をみてみよう。

2012団体を年間収入で分類してみると、10万ドル未満が全体の26%を占めている。また、10万ドル以上、50万ドル未 満が36%となっている。このように、全体の6割以上が年間収入50万ドル未満の小規模な組織である。年間収入が100万ドル を超える組織は、1%に満たない。しかし、この1%のNPOは、2012団体全体の年間収入の19%を占めている。

(表3)からもわかるように、雇用・職業関係のNPOの事業内容をみると、職業斡旋と職業訓練で90%以上を占めている。そ の他として目立つものは、労働団体である。なお、ここでいう労働団体は社会一般 の賃金や労働条件の改善を求めている組織のこと で、組合員だけを対象にする労働組合とは異なる。労働組合は、501c-5団体として登録されている。

職業斡旋は、雇用・職業関係のNPOの60%以上だが、年間収入全体の57%を占めるにとどまっている。逆に、職業訓練を行 うNPOは、件数では28%だが、収入的には41%を占有。このことは、職業訓練を行うNPOの方が職業斡旋のNPOより事業 規模が大きいことを意味している。職業訓練には、一定の施設や器材などが必要とされる。これに対して、職業斡旋は、こうしたハ ード面での投資の必要性が少ないことなどが事業規模の小ささに反映しているものと考えられる。

この他、雇用・職業関係のNPOには、成長率の低さが目立っている。1987年から89年の間に、NPO全体の団体数は、1 8%増加。しかし、雇用・職業関係のNPOでは、4%にとどまっている。ただし、アラバマ、アラスカ、コネチカット、フロリ ダ、ハワイ、アイダホ、イリノイ、インディアナ、ケンタッキー、ミシガン、ニューハンプシャー、オハイオ、ペンシルベニア、バ ージニアの各州では、10%以上増加した。これは、州の経済の成長率と関連あると考えられる。

(表3)雇用・職業関係のNPOの概要
主要な事業内容 団体数 割合 年間予算
雇用・職業全般 23 1.1% $21
職業斡旋 1260 62.6% $1185
職業訓練 556 27.6% $753
労働団体 167 8.3% $103
その他 0.3% $2
合計 2012 100.0% $2064
       
(注)数字は、1989年時点のもので、内国歳入局に会計報告を行った団体のみ。年間予算の単位 は 100万ドル。

<出典>"Nonprofit Almanac 1992-1993", Independent Sector
第二部 ケーススタディ
ケーススタディ1

CDCとANDの歴史と概要

1960年代の公民権運動は、人種的、民族的マイノリティの自覚を促し、全米各地でそれぞれの人種的、民族的な背景をもった 人々による、同じ人種や民族の人々に対するサービスを目的として活動が生まれ、その一部はNPOに発展していった。ここで紹介 するサンフランシスコのAsian Neighborhood Design (AND)も、こうした流れのなかで生まれた組織だ。ANDの設立の中心に なったのは、カリフォルニア大学バークレー校の建築学を選考していた学生である。なお、アメリカでは、学生がNPOをつくるこ とは珍しいことではない。

その名称が示すように、ANDは、アジア系アメリカ人社会のための建築デザイン関係の事業を行うことを目的としたNPOであ る。アメリカには、アファーダブル・ハウジングと呼ばれる低所得者向けの住宅の建築や設計を行うNPOが約2000団体存在す る。こうしたNPOは、Community Development Corporation (CDC)と総称され、全米で年間3万戸の住宅をアフォーダブ ル・ハウジングを建設し、30〜40万戸のアフォーダブル・ハウジングを管理運営している。

ANDの事業は、CDCとしてのアフォーダブル・ハウジングの建設、管理運営だけではない。地域のNPOなどのための施設の 設計デザイン、低所得者が経済的に自立していくための情報提供や相談サービスといった地域社会教育、職業訓練所を通 じた社会 的、経済的に困難な状況にある青年層への職業訓練の提供、家具工場の運営を通 じた青年層への雇用機会の提供など、さまざまな領 域にわたっている。

1995年におけるANDの年間予算は、約300万ドル、有給職員は45名。なお、予算は運営や設計に関するものだけで、実 際の建設費用などは含まれていない。建設に要する費用は、年間3500万ドルに達している。建築されたオフィスビルやアパート などの運営は、管理会社に委託されることが多い。

ANDの職業訓練プログラム

ANDはサンフランシスコで、1970年代の後半から、経済的に困難な状況にある人々を対象にした職業訓練プログラムを実施 してきた。このプログラムは、カリフォルニア州政府から正式な職業訓練センターとして認可を受け、主として家具づくりのトレー ニングを提供するものだ。家具づくりは、建築や設計に関する技術の基本が求められるものである。このため手に技術をもたない 人々にとって、最初のトレーニングという性格をもっている。

この職業訓練センターの経験に基づき、1984年に、家具工場を建設。トレーニングを終了した人々に雇用の機会を提供するよ うになった。また、ここで製造された家具は、ANDをはじめとしたCDCが全米各地で建設されるアフォーダブル・ハウジングに 販売されている。

1995年、ANDは、サンフランシスコ湾をベイブリッジで隔てたオークランドでも職業訓練所を併設した家具工場をオープン させた。工場が建設されたのは、ウエストオークランドと呼ばれる地域だ。以前から低所得者の多い地域であったが、1989年の ロマ・プリエータ地震で大きな被害を受け、1世帯あたりの平均所得が7000ドル、失業率が45%、生活補助の受給率が40% という経済的に極めて困難な状況に陥っていた。ANDは、この地域の人々に職業訓練とともに、雇用機会を提供することで、地域 経済の活性化をねらったのである。

トレーニングの受講生を集めるため、ANDは、他のNPOと協力関係を築いている。オークランドにあるFilipino for Affirmative Action (FAA)というフィリピン系の人々のための雇用促進団体やJubilee Westというウエスト・オークランドで黒 人を中心にした人々に各種のソーシャル・サービス(社会福祉の概念を幅広くしたもの)を提供している団体が、主なパートナー だ。また、職業訓練を終えた後、より高度な技術を習得したいという人のために、サンフランシスコ市立大学で、コンピュータを利 用して設計を行うクラスが受講できるようになっている。

職業訓練所への行政の支援

CDCと行政の関係というと、すぐに念頭に浮かぶのはCommunity Development Block Grant (CDBG)である。1974年 に成立したHousing and Community Development Act (住宅地域開発法)により創設されたCDBGプログラムに基づき、連邦政 府が地域開発事業への補助金を自治体を通じて提供するものだ。サンフランシスコは、このプログラムを通 じて、1996年に24 28万ドルの資金を受けた。

サンフランシスコでCDGBを扱う機関は、Mayor's Office of Community Development (MOCD)と呼ばれるところだ。そ の名の通り、市長の直轄の機関である。MOCDを通 じて、ANDは、CDBGの補助金を受けている。この補助金は、上記の職業 訓練プログラムに対するものではない。CDBGの補助金を受けているCDCがアフォーダブル・ハウジングの建設を増大させるた めに、CDCに建築関係の技術指導を行うことに対するもので、1996年には31万ドルを受けた。

ANDの職業訓練プログラムと行政の関係の第一は、先に述べたように、州政府が職業訓練施設を認可したことがある。その後、 財政的な関係が形成されている。オークランドの職業訓練所に関しても、ふたつの補助金が提供されている。ひとつは、PICを通 じたものだ。PICは、Public Indstry Councilの略で、Job Trainig Partnership Act で、年齢16〜18歳の人々の職業訓練に必要 な財政的援助を行うための補助金を提供する窓口機関である。

もうひとつは、ETP (California Employment Training Panel) というカリフォルニア州政府機関からの補助金だ。この補助金 は、失業者あるいは補助金によってトレーニングが提供されなければ失業する状態にある人々に職業訓練の機会を与えることに対す る補助金である。補助金の財源は、失業保険の原資の一部を充てている。このため、失業保険の受給資格をもつ人へのトレーニング に対してのみ、提供されることになる。

ETPにもみられるように、政府の補助金には、さまざまな制約がある。NPOは、こうした制約を考慮しつつ、可能なかぎり多 様な政府の資金源を求めつつ、運営を行っている。ANDのオークランド職業訓練所は、開設間もないが、将来的には年間200人 がトレーニングを受ける見込みだ。

Asian Neighborhood Design   
431 Bush St., #400, San Francisco, CA 94108   
Tel: 415-982-2959 Fax: 415-296-9066

ケーススタディ2

障害者の自立生活運動とCIL

障害者は家庭や施設で生活すべきだ、という通念が長い間続いていた。この考えに挑戦したのが、自立生活運動である。自立生活 とは、社会福祉の専門家や親ではなく、障害当事者が自らの人生の選択を行い、管理するという哲学に基づき、障害の種類や程度に 関係なく、地域に統合して生活を送ることをいう。この哲学を提示したのが、Center for Independent Living (CIL)に集まった 障害者立ちであった。

CILは、1972年、カリフォルニア大学バークレー校を卒業した障害者たち数名によって設立された。同大学のキャンパスに 近いアパートを本部とし、事務員を雇うためにトランプのポーカーを実施したり、地元のロータリー・クラブに財政協力を求めると いうグラスルーツの出発だった。

設立した間もなく、連邦厚生省から5万ドルの補助金を受け取り、障害者の自立生活を支援するための実験的なプログラムが開始 されることになった。1980年には、有給職員200人、年間予算320万ドルにまで発展。しかし、連邦レベルで共和党政権が NPOが実施する社会福祉関連事業への補助金を大幅に削減したことや州レベルで固定資産税がカットされたことなどにより、CI Lは財政的危機に陥った。

その後、リストラを進め、CILは、再建された。1995年の年間予算は、250万ドル、有給職員は40名。主な事業は、介 護人照会、住宅情報提供、ピア・カウンセリング(同じ状況にある「同僚」によるカウンセリング)、雇用機会拡大プログラム、ア ウトリーチ(啓発)、障害者援助、権利擁護などとなっている。なお、現在、バークレーの自立生活センターをモデルにした団体 は、全米で約300にのぼっている。

CILの職業関連プログラム

現在、全米の障害者の総数は、人口の17%にあたる4300万人。このうち19%の人々は、連邦政府が規定する貧困レイン以 下の生活を送っている。成人の障害者の40%は、公教育を8年間以下しか受けておらず、彼らの65%は、両親とともに生活して いるという状態だ。雇用面いついていえば、労働力人口に該当する障害者のなかで就労している人々の割合は、35%にすぎない。 障害者に勤労意欲がないからではない。障害者の3人のうちふたりは、働くことを希望しているからだ。

このように、アメリカの障害者をめぐる環境は、依然として深刻である。障害者雇用の促進も、単に企業や行政からの求人を受け 付け、求職中の障害者に提示すればすむという問題ではない。仕事をするうえで、まず住居が必要になる。生活の一部を支える介助 者がいなければならない場合もあるだろう。実際に働こうとした場合、職場でのアクセスの問題があるかもしれない。障害者の自立 にとって重要な意味をもつ雇用というゴールに対して、さまざまな条件が整備されなければならないということだ。このため、CI Lのプログラムをみると、障害者の雇用を促進するために、さまざまな直接的、間接的プログラムが設けられている。

直接的なプログラムの代表的なものに、雇用機会拡大プログラムがある。従来、職業訓練プログラムをほとんど利用できなかっ た、少数民族や英語を母国語とせず、重度の障害をもった人々を主な対象にしたものだ。これまでの職業訓練では、方式が限定さ れ、こうした障害者には必ずしも適していなかった。このため、彼らに適した方式の開発を目的にしている。雇用サービスという名 称のプログラムもある。求職中の障害者がプログラムのスタッフから仕事内容の説明を受けたり、面 接の受け方、履歴書の書き方な どの指導を受けるためのものだ。

間接的なプログラムには、独立生活技術を習得するためのものがある。ピアカウンセラーによってワークショップや少人数のグル ープ討議、個人指導などの形で行われる。内容的には、日常生活で必要なことがらや求職活動をする前の心得的なもの、対人関係の 方法などが中心だ。この他、介助者照会、住宅照会、法律相談などのプログラムがあるが、これらも、間接的に障害者が仕事をする うえでの条件整備に関わっているといえよう。

統計はやや古いが、1992年7月から93年6月までの1年間にCILがサービスを提供したクライアントの数は、2279人 だった。内容別にみると、住宅問題が1019人でトップ。次いで、介助者照会の330人、アドボカシー(権利擁護)の246 人、雇用の208人などとなっている。なお、クライアントのなかには、複数のサービスを受けた人もいる。

最後に、CILと障害者雇用の問題について、ふたつの点を指摘しておこう。第一は、CILの職員の大半が障害者であり、障害 者へのサービス提供自体を障害者雇用の受皿になっていることだ。これは、マイノリティや女性、高齢者などの団体などでもみられ る現象だ。障害者の場合、就労時間を限定し、所得を低く抑えることで、障害者年金の受給資格を確保しつつ働くことができる。こ の結果、団体の労務費を抑えることができる。

第二に、CILから雇用プログラムが独立していったことがある。1975年には、コンピュータを使った職業訓練と職業紹介の プログラムがComputer Training Program として独立。この分野におけるニーズが拡大し、専門的に対処することの方がよいとい う判断にたったためだ。この他、障害者のスポーツやレクリエーションへのアクセスを推進するためのプログラムや小中学生を対象 に障害者についての意識を高めるためのプログラムが独自のNPOになっていった。また、Wheelchair of Berkeleyが会社として独 立していっったという経過もある。

CILと行政の関係

すでに述べたように、CILは、設立直後、連邦教育省から補助金を受け、本格的な自立生活支援サービス・プログラムをスター トすることができた。その後も行政からの財政的な支援は、続いている。1995年の予算をみると、総予算250万ドルのうち厚 生省からのCommunity Service Block Grant (CCBG)が6万ドル、その他の連邦政府資金が139万ドル、州政府の補助金が2 4万ドル、バ−クレー市の補助金が21万ドルと、行政からの資金が全体の4分の3を占めている。

ここでは、CILとCCBGの関係を検討してみよう。CCBGは、低所得者の自立と生活向上を目的にしたNPOの事業などへ の補助金制度である。他のブロック・グラントと同様に、連邦政府の資金が自治体に提供され、NPOへの補助金は市などの自治体 を通じて行われる。なお、この際、市が独自に追加予算をつけることもある。

バークレー市の場合、市独自の資金とあわせて約200万ドルの予算がある。この予算は、2年間に一度、NPOからの申請を受 け付け、補助金として提供される。なお、バークレー市でCCBGの補助金を受けているNPOは、約50団体。CILは現在、雇 用援助プログラムへの補助金として3万4000ドル、視覚障害者自立支援プログラムに2万8000ドルを受けている。

CCBGの補助金の申請にあたり、ふたつの重要なプロセスがある。ひとつは、補助金を提供するプログラムの基準を策定するこ と。もうひとつは、提出された申請を審査、補助金の提出先を決定することである。このプロセスで中心的な役割を担うのは、地域 活動委員会だ。委員会は、選挙で選ばれた市民と行政関係者によって構成されている。CILは、委員会に障害者を参画させる努力 をしており、現在も15人のメンバーのうちひとりは定期的にCILのサービスを受けている障害者である。

また、CILは1979年、カリフォルニア州議会の公聴会で自立生活センターへの支持を求めた。これにより、毎年、州内の自 立生活センターの運営費への補助金が予算化されることになった。現在では、全米のほとのどの州が同様の制度を設けている。この ように、自立生活センターという概念は、行政からの財政的な裏付けを受けたNPOによるプログラムとして具体化されるようにな った。

Center for Independent Living   
2539 Telegraph Ave., Berkeley, CA 94607   
Tel: 510-841-4776 Fax: 510-841-6168

ケーススタディ3

SCORE カウンセリング   
ボランティアによるビジネスの下支え   
SBAとの連携の強さ

ケーススタディ4

都市連盟の歴史と特徴

これまでの3つのケースをみると、雇用や職業関係の事業を行っているNPは行政の関係が強い、と思われるだろう。しかし、N POと行政の関係は、事業分野や団体により、大きく異なっているのが現状だ。職業訓練や仕事の斡旋、ジョブ・フェアーと呼ばれ る集団形式の求職者と求人企業の催しなどを行い、雇用や職業関係のNPOといえば真っ先に念頭にのぼってくるUrban League (都市連盟)は、民間企業や自力のファンドレイズの資金援助を中心に運営されていることで知られている。ここでは、ケーススタ ディーを締め括るにあたり、この都市連盟のプログラムや資金源について検討してみたい。

1910年に設立されたNPOの都市連盟の活動の目的は、黒人が社会的、経済的な地位 の平等の達成するために、さまざまな援 助を提供することである。アメリカの黒人団体というと、National Association for Advancement of Colored People(NAACP =全米有色人種地位 向上協会)がよく知られている。NAACPが公民権運動団体というイメージなのに対して、都市連盟は、日常 的に各種のサービスを提供している団体という性格が強い。例えば、雇用や職業関係のプログラムの一環として、オンラインによる 検索可能な就職情報の提供をホームページ上で行っている。

都市連盟は、ニューヨークに本部を置き、全米34の州と首都ワシントンにあわせて114の支部がある。各種のサービス活動の 中心は、支部で行っており、本部、支部あわせて年間200万人にサービスを提供している。具体的な事業内容は、支部により異な っている。事業の資金は、主として民間企業や個人の寄付である。

特に、雇用や職業関係のプログラムでは、民間企業のウエイトが高い。こうしたプログラムは、企業の事業に関連しているため企 業側としても援助しやすいということがあるためだ。後述するように、コンピュータのトレーニング・プログラムにIBMが現金や コンピュータを寄付したり、自動車の技術者の養成事業にトヨタが寄付をしているのは、企業側が寄付をマーケティング戦略の一環 として位置付けていることを示唆している。とはいえ、企業がこうした援助を行える背景には、現金にしろ現物にしろ、寄付控除が 認められていることがある。その意味で、行政の間接的な支援が働いているといえよう。

民間との協力によるプログラム

都市連盟のロサンゼルス支部は、1920年代に設立された。当初は、黒人を対象にした団体であったが、現在では人口構成の変 化にともない、ヒスパニック系の住民へのサービスも広がってきている。同支部の活動領域は、多岐にわたるが、最もよく知られて いるもののひとつが職業訓練に関するものだ。この職業訓練プログラムは、民間企業とのパートナーシップによって実施されている ことでも知られている。

1968年、都市連盟は、IBMとバンク・オブ・アメリカとのパートナーシップにより、サウスセントラル・ロサンゼルスに職 業訓練センターを開設した。サンスセントラル・ロサンゼルスは、1992年の暴動の中心地になった地域で、黒人の居住者が多い ことで知られている。なお、最近では、中米からの移民が人口の多数を占めるようになってきた。1968年以来、このセンターで トレーニングを受けた人は4000人を超え、これらの人々の所得は年間7200万ドルに達している。なお、トレーニングを受け た人の90%は、コンピュータ関連の仕事についている。

都市連盟データ・トレーニング・センターという名称のこの職業訓練所は、コンピュータのプログラミングやソフトやハードの使 用法などのコースを無料で提供している。IBMは、コンピュータやソフト、指導書などを寄付。また、社員がボランティアで指導 にあたっている。バンク・オブ・アメリカは、現金の寄付の他、2万2000平方フィートの建物を訓練所の施設として都市連盟に 無料で貸している。IBMでは、この経験を基に、現在、全米や世界各地140ヵ所で同様のセンターの運営に協力している。

ロサンゼルスの都市連盟が企業とパートナーシップを組んで行っている職業訓練プログラムに、自動車整備工養成を目的にしたも のがある。1992年の暴動の復興事業と暴動の原因となった失業や貧困を解消することを目的にしたもので、トヨタが300万ド ルを拠出。この他、電話会社のAT&T、IBMや自動車部品メーカーなどが財政的な協力を行っている。

この自動車トレーニング・センターの目的は、自動車の整備に関するエントリーレベルのトレーニングを提供するとともに、仕事 の斡旋をすることだ。プログラムを開始して2年間で、200人以上がトレーニングを終了し、このうち82%は自動車整備工とし て就職している。就職先は、シアーズ、チューンナップ・マスターズ、ペップ・ボーイ、モンゴメリー・ワードなどの自動車修理の チェーン店が多い。

行政とのパートナーシップによる事業

ロサンゼルスの都市連盟の雇用や職業関係のプログラムは、民間企業の資金によるものが多いが、行政とのパートナーシップに基 づくものも存在している。ミルケン家識字青少年訓練センターは、そのひとつだ。1990年にミルケン家族財団からの助成金80 万ドルによってスタートしてものだが、現在では、ロサンゼルス市や郡からの補助金を受けている。このセンターでは、16歳から 21歳までの青少年を中心にした人々に、タイプ、ワープロ、データー入力、コンピュータによる会計などの技術を指導している。

また、ロサンゼルスの東郊にあるパサデナ出張所でも、行政とのパートナーシップに基づくプログラムが実施されている。ここで は、履歴書の書き方、仕事の探し方、面接の受け方などの指導が行われる他、指導員をともなって企業でパートタイムの仕事を体験 するというプログラムもある。行政からの資金は、ロサンゼルス郡やパサデナ市から提供されたものだ。

首都ワシントンでは、行政と企業と都市連盟の3者が協力して成果 をあげているプログラムがある。1978年に始まった情報処 理訓練センターがそれだ。企業からはIBM、行政からはワシントン特別 区雇用省、そしてNPOの都市連盟によるジョイント・プ ロジェクトである。職業訓練、職業相談、就職斡旋などを総合的に行うセンターで、これまでに2000人の失業者に職を提供して きた。

ワシントンの都市連盟が1993年に始めたユニークなプログラムに、生活保護を受けている母子家庭の親を対象にしたものがあ る。毎日4時間、11週間にわたるトレーニングの目的は、生活保護からの依存を断ち切り、自立した生活を行う意欲と能力を付け ることにある。具体的には、職業訓練を受けたり臨時雇用につくなどの形だ。しかし、個々人の必要性に応じたきめ細かな指導を行 うのが特徴で、マンツーマンの指導員がつく他、少人数での討論やカウンセリングの時間も設けられている。このプログラムには、 ワシントン特別区の厚生省が補助金を提供している。

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