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差別 体質問われる在米日本企業三菱のセクハラと
住友の融資問題にみる硬直した姿勢

日本太平洋資料ネットワーク
柏木宏

 

一九八○年代後半、「在米日本企業は黒人や女性を差別 している」、という非難が高まった。一九九○年代初めには、連邦議会が 公聴会を開催。「在米日本企業がマイノリティだけでなく、白人男性も差別 してる」という報告がなされ、人権問題への対応は待っ たなしの状況に至った。その後、しばらく在米日本企業における人権問題は、メディアを通 じて人々の目に大きく触れることはなか った。日本企業の経営努力が成果 をあげたのでは、という見方もでた。しかし、昨年四月、連邦雇用平等委員会(EEOC)は、米国 三菱自動車製造をセクシュアル・ハラスメントで、連邦地裁に提訴。さらに年末には、カリフォルニアの住友銀行に対して、融資や 雇用面においてマイノリティや女性を差別しているという訴えが市民団体によって政府機関にだされた。この小論では、三菱自動車 と住友銀行のケースを中心に、最近、在米日本企業に対して厳しく問われている人権問題について検討したい。

 

在米日本企業と人権問題の流れ

戦後の日本企業のアメリカでの事業活動は、一九七○年代までは日本からの輸出を補完するための商社機能を中心にしていた。日 本の製品を扱うことを主眼としていた結果、本社からの派遣社員を主体とした人事管理を採用。現地で採用した人々との間で格差が 存在することは当然、とみなされていた。

この認識が問われたのは、一九七○年代半ばから始まったニューヨークの住友商事とヒューストンの伊藤忠商事における雇用差別 訴 訟だ。住友商事は女性従業員を単純な事務作業にしか従事させず、営業職での採用や管理職への登用がなされない、と批判された。 伊藤忠は白人男性が日本からの派遣社員に比べ差別的な処遇を受けていると、訴えられた。

裁判において、住友と伊藤忠は、両社は日本企業であり従業員の採用において「独自の選択」ができると主張した。「独自の選 択」という概念は、一九五三年に締結された日米友好通商航海条約に盛り込まれているものだ。一方の国の企業が相手国で事業を行 う場合、専門職や管理職の採用を自由に行うことを認めたものである。

連邦最高裁は、一九八二年の判決で、住友商事と伊藤忠はアメリカで現地法人されており、日本企業ではなく、アメリカ企業であ るという判断を示した。これにより、在米日本企業は、アメリカの企業として、雇用差別 を禁止した公民権法第七編をはじめとした アメリカの法律を遵守することが必要と認識されるようになった。

住友商事と伊藤忠の裁判は、この最高裁判決の数年後、ともに原告側の主張を求める形で和解した。この頃、在米日本企業の雇用 差別に関して、EEOCによる調査や従業員による訴訟が盛んに行われた。最も有名なケースは、オハイオ州のホンダに対するEEOCの 調査だ。女性や黒人への雇用差別問題に対する調査の結果、ホンダは総額六○○万ドルにのぼる慰謝料などを支払い、和解にいたっ た。

一九九○年代に入っても、こうした問題は後をたたず、遂に連邦議会が動き出した。下院の小委員会が数次にわたり、全米各地で 在米日本企業の雇用差別問題に関する公聴会を開催したのである。住友商事やトヨタ、NECなど日本を代表する企業の現地責任者が 公聴会の場で、議員から厳しく追及された。こうした手痛い経験をへて、在米日本企業は、徐々に雇用平等をはじめとした人権問題 に理解をもつようになったかにみられた。


三菱のセクハラ問題の経過

三菱自動車工業がイリノイ州シカゴから車で約三時間の地方都市、ノーマルにクライスラーと合弁で進出して三年後の一九九一 年、クライスラーは保有していた五〇%の株式をすべて三菱側に売却。職場でセクシュアル・ハラスメントが問題になったのは、こ の頃からだ。

セクシュアル・ハラスメントは、公民権法第七編に違法する行為である。ハラスメントの被害者は、EEOCに救済を求めることに なる。EEOCが訴えを却下するか、訴え後一定期間を経ても問題が解決しない場合、被害者は、民事訴訟を起こすことができる。ま た、EEOCは、被害者に代わって、訴訟を起こす権限をもっている。

一九九二年から九五年にかけて、米国三菱の女性従業員は、セクシュアル・ハラスメントを受けたとしてEEOCに訴えを起こし た。一九九四年五月、EEOCは、調査を開始。同年一二月には、女性従業員二六人が連邦地裁に民事訴訟を起こした。調査開始から 二年後の一九九六年四月、EEOCは、米国三菱のハラスメントが極めて深刻と判断、独自にクラス・アクション(集団訴訟)を起こ すに至った。

集団訴訟は、原告だけでなく原告と同様の被害を受けた人々全員を救済するための訴訟だ。雇用差別 や消費者保護の問題でしばし ば用いられている。前述の住友商事やホンダのケースでも、集団訴訟がとられたため、原告以外に数百人の人々が救済された。これ により、企業は大きな慰謝料を払う可能性があり、問題の発生を抑止する効果 が期待できる。


公民権団体の動きと問題の拡大

問題を司法の場から市民団体との争いに変えたのは、他ならぬ三菱自身だ。集団訴訟に対し、地元の市長も含めて三〇〇〇人近い 人々をバスでEEOCのシカゴ支部まで送り、抗議デモを実施。この三菱の「力の政策」に全米女性機構(NOW)やジェシー・ジャク ソン師らが強く反発、三菱ディーラー前でのピケやボイコットが実施された。

一九九六年六月、三菱自工の株主総会にあわせて、全米最大の女性団体、NOWの副会長が訪日。日本の女性団体からの支援者とと もに、株主総会の会場前で抗議行動を実施、日米のメディアの大きな関心を集めた。同副会長は、労働大臣とも会談、米国三菱の問 題だけでなく、日本における男女差別の現状を批判、均等法の改正強化も訴えた。

七月には、ジャクソン師が訪日。三菱自工だけでなく、トヨタ、ホンダ、ソニーなどのトップと会談、在米日本企業がマイノリテ ィの雇用やマイノリティ企業との事業契約を増やすよう要求した。なお、人種民族の少数者(マイノリティ)や女性が経営する企業 をマイノリティ企業と呼んでいる。

こうして、米国三菱の問題は、一企業に対する訴訟から日本企業のあり方、日本社会の男女差別 も問うものへと発展していった。 この影響で、日本企業の多くがセクシュアル・ハラスメント問題に取り組むようになり、不十分ながら均等法にハラスメント禁止が 盛り込まれることが決まった。


改善案の提示と今後の課題

今年一月、米国三菱は、マイノリティ企業との事業関係の改善に向けたプログラムを発表。マイノリティや女性が所有するディー ラーを今後五年間で一五%に増加させることと、そのためにマイノリティや女性のディーラーへのトレーニング・プログラムを実施 することを骨子としたものだ。

これらの措置による三菱の投資額は二億ドルにのぼり、一八〇〇人分の新規雇用が生まれると推定されている。ジャクソン師は、 これを評価、昨年五月から続けてきた三菱車のボイコットを中止した。

さらに二月、米国三菱は、職場環境の改善案を発表した。元労働長官のリン・マーチン氏を座長に、半年以上をかけて作成したも のだ。改善案は三四項目に及び、それぞれの内容が実施されなければならない理由、実施形態、責任体系、実施時期、モニター方法 などが盛り込まれている。

NOWは、米国三菱の改善案を評価。「今後どのように実施されていくかを見守る」としてピケなどの抗議行動を中止することを表 明した。このため、問題解決が間近いのではという観測が流れた。しかし、以下のような理由から問題の全面 解決には、なお時間が かかることは必至だ。

第一に、EEOCの訴訟について解決のメドがつていない。四月末、EEOCは、米国三菱のセクシュアル・ハラスメントの被害者を二 八九人と認定、これらの人々への補償を求める考えを明らかにした。この数字についてEEOCは、「三菱側が女性従業員に脅迫を続 けているため最低限のもので、今後さらに増加することは確実」と語っている。

なお、民事訴訟については、五月中旬、原告、被告双方が調停手続きに入ることに合意したことが明らかになった。両者とも、 「調停が公正で、早期の訴訟解決につながることを望んでいる」と述べている。

第二に、問題解決に向けて、三菱内部の意志統一がはかられていないことがある。四月末、米国三菱の大井上会長が顧問に退き、 三菱自工の山下常務が新会長に就任することが突然明らかにされた。ワシントン・ポスト紙は、米国三菱では複数の幹部が職場改善 計画の実施に強く抵抗しており、問題の早期解決をめざす本社の意向を現場に反映させるため、山下常務の派遣が決まった、と伝え ている。

第三に、上記のような三菱の姿勢に対して、不信感が高まっていることがある。一時は改善案を評価したNOWも、「三菱側が訴訟 を起こした女性従業員をいまだに脅迫している」とし非難。五月末、NOWが最近始めた「恥の商人」のリストに三菱を加えることを 発表、抗議行動を再開した。

表1 最近の在米日本企業の人権問題

企業名(所在地) 概要
ニューオータニ・ホテル
(ロサンゼ ルス)
マイノリティや移民、女性が圧倒的多数を占める職場の組織化に対し、女性やマイノリティ への差別発言やハラスメントが行われ、地域社会からも批判されている。
   
ホンダ
(オハイオ州)
女性に対する差別があるとして連邦地裁に訴訟が起こされている。
   
NUMMI
(カリフォルニア州)
トヨタとGMの合弁会社であるこの企業で、女性従業員からセクシュアル・ハラスメント訴 訟が起こされている。
   
三和銀行
(カリフォルニア州)
移民労働者を搾取しているアパレル企業に融資をしていることで批判されている。
   

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